「違法なマルチ商法」
夢を持って上京するのは良いものの、東京ではSNSや映画でしか見たことのないような光景がリアルに広がっています。
新しく知り合ったあの人が、目の前の友人が、サークルの先輩が、マルチの勧誘員だったらあなたはどうしますか?自分とは関係ない言葉に聞こえるかもしれませんが、これは決して他人事ではありません。
上京した若者を狙っているマルチの勧誘員は星の数ほど存在します。
そして、上京したての若者は、新しい知り合いが持ちかける『うまい話』に高確率で騙されてしまうのです。
この記事では、東京の洗礼とも言うべき『マルチ商法の恐怖と対策』について解説していきます。
上京したてのあなたは騙されないように、この記事を読んで本当は危険な『うまい話』の対策をしていきましょう。
マルチ商法とは
マルチ商法は「マルチレベル・マーケティング」の略称。
その頭文字をとって『MLM』と表記されることもあります。
マルチ商法の構造は単純です。
① 会員が新規会員を誘う
② 新規会員がさらに別の会員を勧誘する
この行程が無限に繰り返され組織が大きくなりピラミッドのような階層組織を形成・拡大していきます。
これと似た形態に『ネズミ講』というものがありますがネズミ講とマルチ商法には明らかな違いがあります。
ネズミ講
実態のない金品の受け渡しが目的
マルチ商法
実態のある金品の受け渡しが目的
ネズミ講が「新規会員が支払う高額の会費をメンバー間で分配する」のに対し、マルチ商法は会費を分配するのではなく「その会社が扱う商品や権利収入を新規会員に販売して、その紹介料としての収入を得る」というシステムになっています。
またネズミ講は「無限連鎖講防止法」という法律で禁止されているのに対し、マルチ商法は、その性質が「連鎖販売取引」に当たるため(かなりグレーですが)法律(特定商取引法)的には問題ないとされています。
しかし、合法な販売方法だからと言って、大手を振って行うと大きな損失を被ってしまう可能性があります。
その理由は、マルチ商法の仕組みを見れば明らかです。
マルチ商法の仕組み
マルチ商法の勧誘方法
マルチ商法では、商品を販売する人を「代理店」と呼んでいます。
輸入車や携帯電話の販売などでも耳にする言葉ですね。
そんな身近な言葉であるがゆえ、会員は新規会員を勧誘する際に、docomoなど身近なものを例に出して、新規会員の心理的ハードルを低くします。
また、勧誘の際に、有名芸能人の名前を出したり、一緒に撮った写真を見せて権威性のアピールをすることがあります。
それを聞いて、「有名人もやっているなら安心だ。それなら、やってみよう!」と始める方も少なくありません。
しかし、流されるままに会員になってしまうと、落とし穴があります。その落とし穴とは、金額的なものです。
具体的に言えば代理店(会員)になるために多額の会費を支払わなければいけません。
その支払いと内訳はどうなっているのかを続けて解説していきます。
マルチ商法の会費や月々の支払い
多くの場合、代理店(会員)になるためには一定の料金を支払う必要があります。
そのときに支払う初期費用の金額は、決して払えない額ではない「10万〜30万円」が相場です。
「この程度の金額も自分に投資できなければ成功しない」「お金が用意できなくても消費者金融から借りられる方法を知っている」などの決まり文句もセットで覚えておきましょう。
この初期費用を支払うことで将来的(多くの場合、一生ではなく数年間)に、代理店の権利が得られます。
しかし、ここでも注意しなければいけないポイントがあります。
会費は一度支払えば終わりではないということです。
多くの会社では、会員になったあとにも毎月、その会社の商品を自腹で購入することが義務付けられています。
これを「オートシップ」と呼びます。このオートシップにも大きな罠が潜んでいます。
オートシップの罠
会員が毎月、商品を購入することは「オートシップを炊く」などと表現されます。
月々の支払い額はマルチ商法の会社によってまちまちですが、およそ1万〜2万円が相場です。
「商品の購入の強制や義務化は違法ではないのか?」そういった疑問もありますが、ここに違法に当たらない抜け道があります。
「建前上、商品の購入は会員の自由」ということです。
購入したい人は購入すればいいし、購入したくない人はしなくてもいいんです。
しかし、ほぼすべての会員が毎月オートシップを炊いています。
それはなぜでしょうか?答えは簡単です。
オートシップを炊かなければ「代理店の権利が消滅してしまう」からです。
さらに、自分や他の会員が新規会員を勧誘した際に発生するリクルート料も今後支払われなくなってしまいます。
つまり、権利収入を得たいためにマルチ商法を続けているにも関わらず、このままでは一生、権利収入を得られないという結果になってしまうのです。
こういった理由から入会したものの未だ収益が得られていない会員でも義務のように毎月、商品の購入を欠かさずしているのです。
マルチ商法はまわりの人間を巻き込む
マルチ商法を行っている会社の中には会員が自分で購入した商品を別の人間(非会員)に販売するという方法をとっている会社もあります。
しかし、多くの場合、こういった販売方法では思うように商品が売れず会員の元には多額の在庫(赤字)が積み上がってしまいます。
その状況に焦った会員は、親戚、知人、友人を引き込むことでなんとか在庫を処分しようとします。
しかし、それが原因で、今まで大切にしてきたはずの人間関係がいとも簡単に破綻してしまいます。
興味のない商品やサービスを突然売りつけてくる知人など、自分の周りから遠ざけたいと思うのはみんな一緒です。
しかし、マルチ商法をやっている人は第一にそれをやってしまうのです。
なぜなら、それをやらなければ一生、収益を得られないどころか入会時に支払った多額の入会費をペイできないのですから。
これは新規会員をリクルートする場合でも同じです。
赤の他人を誘う度胸もスキルもない初心者はまずは、声をかけやすい知人に当たってしまいます。
しかし、冷静に考えればこのビジネスモデルの弱点が見えてくるでしょう。
マルチ商法がなぜダメなのか
マルチ商法はビジネスモデルとして大きな欠陥をかかえています。
なぜなら限りある人口の中、無限に販売員を増やすことなど不可能で、この販売方法では、すぐに行き詰まってしまうからです。
マルチ商法は、自分の下につける販売員を増やすことで収益を増やしていくシステムですが、思うように販売員を増やすことは難しいでしょう。
また、人を利用するビジネスモデルである以上、この方法ではすぐに行き詰まってしまいます。
結局、マルチ商法では一部の会員(=ピラミッドの最上部に位置する会員)しか儲からない構図になっており、そこが問題視されています。
マルチ商法の収益の上げ方
多くのマルチ商法では、自分を頂点として考えたとき、あなたは自分の右下と左下に一人ずつ会員をつける形をとります。
この会員は、先輩が紹介してくれるケースもありますが、ほとんどの場合、自分で2人の新規会員を獲得しなければいけません。
そして、獲得した新規会員もそれぞれ自分を中心と考えたときに右下と左下に一人ずつの会員をつけます。
このように倍々ゲームのような形をとりピラミッドは巨大化していきます。
そしてピラミッドが巨大化すればするほど、建前上、あなたの収益は増えていきます。
しかし、現実はそう甘くありません。
マルチ商法で収益が上がらない理由
多くのマルチ会社では、ピラミッドが綺麗な形でできたときに初めて、あなたへの支払いが行われます。
具体的な例を挙げましょう。
例えば、あなたが1人の会員を獲得したとします。
すると、あなたは左右のどちらかにその会員をつけることになります。
この時点では、まだピラミッドの形になっていないため収益は発生していません。
これをピラミッドの形にするためには、もう1人別の会員を獲得し、左右の残りにつける必要があります。
この作業を完了して初めてピラミッドが1段できたということになるのです。
しかし、その先にはさらなる困難が待ち受けています。
マルチ商法は一生勧誘し続ける作業
マルチ商法の難しいところは、2段目以降のピラミッドを形成するところです。
1段目は勧誘を頑張って左右に会員を作ったとしても、あなたから見た2段目以降のピラミッドを作っていくのは、あなたが勧誘した人たちなのです。
果たして、その人たちは勧誘のプロでしょうか?
たとえば、それが友人や知人だったとします。
彼らには新しい友人・知人を勧誘する能力はあるでしょうか?
もしそれがない場合、残念ながら、ピラミッドはそこから広がっていくことはありません。
また別の例を挙げてみましょう。
もし、右下の人だけが頑張り、その人の下に、たくさんの新規会員がついたとします。
その人は、自分を中心としたピラミッドをうまく作れるかもしれません。
しかし、その状態で左下の会員が1人も勧誘できなかったとすると、あなたから広がるピラミッドは1段のまま進みません。
さらに勧誘ができない左下の会員は出費ばかりがかさみ、いずれは退会してしまうでしょう。
そうなった場合、あなたを頂点としたピラミッドは崩れ、新たに左下に会員をつけない限り収益は発生しなくなります。
これが、マルチ商法で簡単に収益があげられない理由です。
マルチ商法は24時間の肉体労働
マルチ商法での収益を失わないために、あなたは自分の下の会員たちの面倒を見ることになります。
具体的に言えば、自分の下の会員のために勧誘活動をし続けるのです。
それをしなければ、前述のような勧誘できない会員が退会してしまい、その結果、自身のピラミッドが崩れてしまいます。
つまり、あなたは一生、後輩のために新規会員を勧誘し続けなければいけません。
これは果たして、「楽して権利収入や不労所得を得る」という行為に当たるのでしょうか?
先輩会員があなたを誘った本当の理由
先ほどたとえ話として「あなたをピラミッドの頂点と考えた場合」と言いましたが、全体を俯瞰してみると、あなたがピラミッドの頂点になることはありません。
「左右に一人ずつ子会員をつける」というのは、自分の上の会員も同じことです。
そして、その行為は上の階層でも延々と同じことが繰り返されています。
つまり、マルチ商法は「そのビジネスを始めた人間」を頂点として、本当のピラミッドが形成されているのです。
ここで、あなたをマルチ商法に誘った先輩の意図が見えてきます。
先輩は、このピラミッドの構造のなかで「自分の収益」を得るため、あなたに声をかけ、あなたのサポートをしてくれているのです。
だから、「みんなで幸せになろう」「一緒に勝ち組になろう」などという文句で、あなたを誘ってきたのです。
そして、まんまとその言葉に騙されたあなたはそのシステムに組み込まれてしまい、自分の収益のために一生誰かを誘い続けるか、なにもせずに毎月のオートシップを払い続けるかの2択を迫られるのです。
この2択ではどちらを選んだ場合も「思ったように楽に稼げない」という大きなマイナスの結果が待っていることでしょう。
アムウェイに対する消費者庁の取引停止命令
2022年10月14日、消費者庁はマルチ商法大手の会社である「日本アムウェイ」に対して6ヶ月間(2022年10月14日〜2023年4月13日)の取引停止を命じました。
処分の理由は、特定商取引法違反。
強引な勧誘のやり方が問題視されての結果です。
アムウェイでは、会員が自社製品を自腹で購入し、それを非会員に販売するという方法をとっています。
そんななか、一部の会員は執拗に販売や勧誘を行い、相手が根負けして「購入する」と言おうものなら「アムウェイに入会しなければ、商品は買えないからすぐに入会しろ」などという違法行為に近い方法で強引な勧誘を行っていたそうです。
また、ひどいケースでは、勧誘している相手に対し「スマホを貸して」などと言って、勝手に会員登録をしていたという事実もあったといいます。
違法なマルチ商法 勧誘のやり口
マルチ商法の会員は、日常のありとあらゆる場所に潜んでいます。
よく見かけるのは多くの人が集まる場所−−
大学や社会人のサークル、ビジネスのセミナーなどが有名ですが勧誘場所はそれだけにとどまりません。
TwitterやInstagram、マッチングアプリにもマルチ商法の魔の手は潜んでいるのです。
勧誘のテンプレートは「あなたの健康が心配」「稼いでいるすごい人がいる」「8割の仕事は将来なくなる」「投資の時代」などの謳い文句が用いられます。
また、SNSなどでは、赤の他人がいきなりDMを送ってきたりします。
この場合、「儲けませんか?」などといったダイレクトな文言がテンプレートです。
より巧妙な人間になると、別の角度から攻めてくることがあります。
出会い系サイトやSNSで自然に近づいてくる人間には気をつけましょう。
女性から男性、男性から女性など恋愛に絡めた方法で近づいてくるケースも少なくありません。
このケースでは、インターネット上で出会っただけのまだ見ぬ異性に淡い恋心を抱き、そして言葉巧みに入会させられる被害者があとをたちません。
他にも、新規会員を増やすために「枕営業」を女性も少なくありません。
こういった誘惑にも注意してください。
ただし、枕営業を行う方にもリスクや落とし穴があります。
あなたが自分は女性で容姿も優れているから「枕営業をすれば収益が得られる」と思うのは早計です。
しかし、ほとんどのケースで、この「枕営業」は成功しません。
よく聞く話では、ホテルで行為に及び、入会の口約束は交わしたものの、別れた瞬間から男性と連絡が取れなくなるという結果が待っています。
こうして時間と身体と精神を消耗した挙句なんの成果もあげられない方が少なくありません。
人を利用するつもりが、逆に利用されてしまっているということなので自業自得と言うべきでしょうか。
また、大人数の飲み会(新歓パーティや忘年会、新年会など)にも、マルチ商法の会員がなぜか紛れていたりします。
それは「友達の友達」という名の人間です。
そういった人物が不自然に紛れ込み、飲み会の場で次々と勧誘を行っているのです。
ビジネススクールやセミナーなども要注意と言えるでしょう。
ビジネススクールやセミナーでは、なまじお金について学んでいる分、普通では支払わない高額の入会費もポンと払ってしまう人が少なくないため、勧誘する側にとっては好都合なのです。
こういった勧誘には注意するようにしてください。
マルチ商法をやっている人の特徴
マルチ商法をやっている人の特徴は様々ですが見分ける際は、とくに言動に注目してください。
「芸能人の友達がいる」
「自分磨きのために自己啓発やビジネススクール、セミナーなどによく通っている」
「知り合いにすごい人がいる」「知り合いに超大金持ちがいて、高級ディナーを奢ってくれる」
「今度、すごい人が集まる飲み会がある」
こういったセリフを一度でも口にした人のほとんどはマルチ商法に触れている可能性が高いです。
また、SNS投稿も判断材料になります。
投稿された写真に山積みになった高級ブランドのバッグや箱、札束がある人は要注意です。
一見、羽振りがよくすごいと思われがちですが、ネタバレをすると、あれはマルチ商法の事務所の撮影キットです。
実は、一部のマルチ商法の事務所(または勧誘のための溜まり場)には、SNS用の撮影スペースがあり、高級ブランドなど小道具を使って写真撮影ができるようになっているのです。
マルチ商法に関わりを持つ人は、権威に弱い傾向にあります。
背後には「自分よりすごい人がいる」という雰囲気を出す「ティーアップ」という技術で、あなたに「すごい人の存在」をすり込ませて、いずれ、そのすごい人とあなたを引き合わせようとしているのです。
しかし、その相手はただのマルチ商法のアップの人なのです。
すごい人でもなんでもありません。
マルチ商法に引っかかる人の特徴
マルチ商法に引っかかりやすい人の特徴をあげます。
・学校や社会で孤立している人
・楽して儲けたいと思っている人
・夢ややりたいことがない人
・誰かの人生に乗っかって成功できればいいなと考えている人
この中の1つでも当てはまっているのならば、あなたはマルチ商法に引っかかってしまう可能性があります。
また、本当にお金がない人というのはマルチ商法に引っかかりません。
引っかかりやすいのは、親や親戚などからお金を工面できる人、アルバイトを頑張れば30万円を工面できる人などです。
こういった方は、なまじ生活に余裕がある分甘い言葉に乗ってしまいがちです。
頑張って用意した少ないお金を簡単に増やしたいと思う心理が働くため、「30万程度ならなんとか用意できる」と思った人は注意してください。
マルチ商法に騙された時は…
万が一、マルチ商法に騙されてしまった方も、絶望しないでください。
マルチ商法にはクーリングオフ制度が設けられています。
たとえ自分の意思で契約をしてしまったとしても、一定期間内ならば、解約することができます。
期間は、法律で決められた書面を受け取った日(商品の引渡しの方があとである場合にはその日)から数えて20日以内ですので、なるべく早めに対応するようにしましょう。
クーリングオフは、書面または電磁的記録により可能です。
まとめ
現代では、リアルの世界だけでなく、SNSの世界にもマルチ商法の魔の手が広がっています。
生きていくうえで、避けては通れない誘惑だと思った方がいいでしょう。
しかし、だからといって悲観する必要はありません。
マルチ商法がどんなものなのか、どうして儲からないのかという正しい知識を持っていれば今後、どんな勧誘員に声をかけられたときにも、ブレずに自分を保つことができるでしょう。
マルチ商法に負けない、明るい新生活が送れることを願っています。